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宿泊業界のSEO事情|ホテル・旅館の利益最大化

新型コロナウイルスの影響を最も深刻に受けた業界の1つである宿泊業界。

 

コロナ禍の収束後はGO TOトラベルをフックとして旅行需要が大幅に上がることは予想されるものの、依然として厳しい状況が続いています。

 

今回は宿泊業界におけるSEOを解説しつつ、ホテル・旅館の利益最大化についても言及したいと思います。

 

 

宿泊業界のSEO事情とは?

結論から言うと、宿泊業界ではSEOによって自社のWebサイト経由の集客や売り上げの向上を図ることは非常に困難となっています。その理由は業界特有の事情にあります。

 

①オンラインでの宿泊予約は8割がOTA

宿泊予約の手段は大きく分けて3つあり、オンライン予約・電話やメールでの直接予約・旅行代理店など実店舗での予約となっています。このうちオンライン予約がおよそ半数を占めており、更にその中のおよそ8割がOTA経由での予約です。

 

OTAとは「Online Travel Agent」のことで、楽天トラベルやじゃらんに代表される、旅行や宿泊の予約を行えるWebサイトです。

 

商品の販売をいくつかのプラットフォームに依存するのは珍しいことではありません。オンラインでの宿泊予約が主流になる前は実店舗の旅行代理店がその役割を担っていました。しかしこのOTAの存在が宿泊業界におけるSEO施策などの限界に繋がっており、個々のWebマーケティング戦略を難しくしている側面があります。

 

②自社サイトへの流入は指名検索が9割、CVRは0.5%

宿泊業界の自社サイト(個々の旅館・ホテルの公式サイト)は、ユーザーの流入の9割超が指名検索です。指名検索とは企業名や商品名、サービス名などの固有名詞(宿泊業界の場合旅館名やホテル名)で検索することを言います。つまり、宿泊業界では自社サイトを訪れる人のほとんどが「既にその旅館やホテルを知っている人」となっているのです。

 

Webサイトにおいて9割以上が指名検索というのは宿泊業界特有と言えるでしょう。まずは楽天トラベルやじゃらんといったOTAで宿を探し、候補となる宿の名前で検索し公式サイトで魅力を確認し、再度OTAに戻って予約をするというのが宿泊業界におけるオーソドックスなユーザーの動きとなっています。

 

元々、指名検索が多いということは購入(予約)の見込みが高いリードが多く集まるということで、決して悪いことではありません。しかし宿泊業界では自社サイトに流入してきた有望な見込み顧客がそのまま自社サイトのCVRに繋がることがほとんどありません。自社サイト内の予約システムへの遷移がおよそ3~5%、最終的に予約が完了するCVRは高くても0.5%ほどとなっています。CVRの標準は1~2%と言われているので、宿泊業界における自社サイトのCVRの低さがわかるでしょう。

 

ほとんどの人がOTAに戻って予約をする理由には、OTAを使い慣れている、OTAの方がポイントが貯まる・使える、自社サイトの予約システムが使いづらいなどがあります。そのような状況のため、自社サイトに流入したユーザーがそのまま自社サイトでの予約(直予約)をしてくれる可能性が非常に低いのです。また、もし自社サイトを見て魅力を感じてくれたユーザーがOTAで予約をしてもアクセス解析でその数字を追う事はできません。これでは仮にSEOによって潜在層の獲得を目指したとしても、自社サイトでのCVR向上の見込みも少ない上にOTAでの予約に繋がった因果関係も確認できないため、SEOを明確な売上向上の手段として採用しにくいのが実情なのです。

 

 

③キーワード検索でもOTAの存在感が大きい

また、宿泊業界でSEOをしても効果がない理由の一つとして、キーワード検索でヒットするコンテンツもほとんどがOTA内のコンテンツという事情があります。例えば「〇〇温泉 おすすめ」と検索しても、1ページ目に表示されるページはほぼOTA内のページです。これは各OTAが予約サイトとしての機能だけでなく、ランキングや特集など様々なコンテンツを供給しているためです。

 

検索結果の上位表示にはSEOのテクニックやコンテンツの質だけでなく、ドメインパワーも重要な要素となります。ドメインパワーは基本的にサイトのユーザーが多ければ多いほど強くなりますので、多くの人が利用する超巨大プラットフォームであるOTAのドメインパワーは、個々の旅館・ホテルの自社サイトではまず太刀打ちできない強さになっているでしょう。

 

そのため、仮に自社サイト内でSEOのために施策を実施したりコンテンツを制作したりしても、OTAの供給するコンテンツ群に勝って一桁台の検索順位を獲得するのは非常に困難になっています。

 

 

以上の理由から、ユーザーの獲得や認知をほぼOTAに依存している宿泊業界において、キーワード検索により新規顧客や潜在層を獲得する、CVRを向上するといった観点でのSEOはほとんど無意味と言わざるを得ないのです。(もちろん「旅館・ホテル名での検索結果に表示される」ためのごく基本的なSEOは必要です)

 

 

宿泊業界で売上や利益を最大化するには?

SEOが全く意味がないとは言っても、OTAからの予約には10%前後の送客手数料が発生してしまうため、自社サイトからの予約を増やすことで手数料負担を軽減し利益率を上げたいというのは多くの旅館・ホテルが考えることでしょう。

 

売上や利益を最大化するために、SEOを考える前にやるべき施策がいくつかあります。

 

 

①Webサイト(自社サイト)の制作・改修

宿泊業界におけるオンライン予約ではOTAが集客・認知・予約(CV)のほとんどを担っていますが、自社サイトもその過程で重要な役割を持っています。多くのOTAは前時代的なデザイン・レイアウトで情報が雑多なため、その宿の本当の魅力を伝えるには自社サイトが最も有効な手段となります。多くのユーザーが指名検索で自社サイトを訪れるのは、宿の魅力や詳しい情報を知りたいからです。OTAで候補に挙げてくれた有望な見込み客に対し宿の魅力を的確に伝え、自分たちの宿が選ばれる可能性を高めるために自社サイトを最大限活用するのが、売上や利益を上げるための重要な手段の1つと言えるでしょう。

 

そのためには自社サイトのクオリティを最大限高める必要があります。旅館やホテルの自社サイトはほとんどの場合でコンテンツの内容や種類に差が出ることはありませんが、宿の魅力を表したデザインや画像を使ったいわゆる「シズル感」を高められるサイトにすることで差別化を図ることができます。

 

またシズル感のような情緒的な要素だけでなく、ページ導線やCTAなどを適切に配置しストレスフリーなサイト内回遊を促すのも必要な要素です。

 

例え自社サイトからの直予約に繋がらなくても、ハイクオリティなデザイン・レイアウトを有したサイトで宿の魅力を最大限に伝えることが売上の向上にも繋がります。クオリティの高いWebサイトの制作にはそれなりの費用が掛かってしまいますが、効果が出る可能性が低いSEOにリソースやコストを割くのであればまずは自社サイトを見直し、クオリティの高いサイトを目指すことをおすすめします。単に宿の情報を伝えるためではなく、OTAでは伝えられない魅力をいかにして伝えるかという点にフォーカスして自社サイトの役割を考えると良いでしょう。

 

 

②自社サイトの予約システムを見直す

自社サイトからの直予約を増やせる可能性があるとすれば、予約システム(予約ASP)の改善でしょう。予約ASPは様々な企業から提供されていますが、OTAのように前時代的なデザイン・レイアウトのものも多く、予約完了までのステップの多さや雑多な情報配置がOTAへの流出の原因の一つともなっています。

 

そのため、できるだけデザインやレイアウトが洗練され、予約ステップが短い予約ASPを選ぶことが重要です。中にはCVR向上のためにレイアウトや予約ステップの最適化に力を入れている予約ASPもあります。また予約ASPのほとんどはデザインのカスタマイズが可能なため、予約ASPのデザインを自社サイトに合わせて違和感を無くすこともできます。前述のように自社サイトでは情緒的な要素が非常に重要になるため、自社サイトで上がったユーザーの熱量を損なう事のない洗練された予約ASPを用意することが直予約向上にも繋がります。

 

結局ほとんどの人がOTAに戻ってしまうからと諦めるのではなく、少しでも直予約を増やし利益率を上げるためにも予約ASPの改善を検討することをおすすめします。また、自社サイト限定のプランや料金、特典などを用意するのも有効な手段と言えるでしょう。

 

 

③OTA側での対策も怠らない

宿泊業界ではユーザーの認知においてOTAが重要な役割を持っているため、そもそもユーザーに知ってもらう、候補に挙げてもらうためにもOTAでの対策も必要になります。

 

例えばできるだけオリジナルのページを用意する(楽天トラベルの場合)、口コミへの返信を小まめにするなどです。またOTAへの直接的な対策ではありませんが、ユーザーからの口コミを元に自分たちの問題点を改善し、口コミの点数アップを目指すなどのごく基本的な対策も怠らない方が良いでしょう。

 

 

④Web広告を利用する

宿泊業界においてSEOはほとんど意味がないものの、Web広告に関してはある程度の効果は見込めます。Web広告とはインターネット上のWebサイトやメディアに掲載される広告のことで、リスティング広告やディスプレイ広告、リターゲティング広告、アフィリエイト広告、SNS広告など、いくつかの手法があります。その中でもリターゲティング広告とSNS広告は宿泊業界の特性とも比較的相性が良く、おすすめです。

 

Web広告はSEOのように検索キーワードだけでなくユーザーの年齢や性別、興味などに合わせて広告を出せるため、狙いたいユーザー層にピンポイントで広告を表示させられる点がメリットとなっています。SEOに比べると短期間で成果が出しやすく、また掛けたコストに対する成果がすぐにわかるため軌道修正の判断なども比較的容易になる点もポイントです。OTAの存在に左右されることもないため、時間的・費用的コストを掛けてSEOを実施するくらいならWeb広告の方が有効性は高いと言えるでしょう。

 

 

効果的に施策を実行するために

自社サイトの改修・制作やWeb広告の運用にはスキルやノウハウが必要になります。独学で学ぶことも不可能ではありませんが、基本的にはそれぞれの施策に精通した専門家に依頼することをおすすめします。特に自社サイトの改修・制作に関しては宿泊業界にある程度知見がある制作会社を頼ることで、よりスムーズかつ高品質なサイト制作の可能性が高まります。

 

「こんなサイトにしたいがどう作ればいいかわからない」「どういうサイトにすれば宿の魅力が伝えられるかわからない」という場合は制作会社に相談すると良いでしょう。

 

またWeb広告に関しても同様に専門性の高い分野になりますので、専門家に相談しながら検討を進めることをおすすめします。

 

 

まとめ

以上のように、宿泊業界はユーザーの動きが非常に独特なため、SEOがほとんど意味を成さない特殊な業界と言えます。集客や認知の大部分をOTAに頼らざるを得ない状況ですが、その中でもできることは沢山あります。例えば以下のような戦略で各チャネルの改善を図るのも有効でしょう。

 

①OTAで認知してもらい、候補にしてもらう

②自社サイトで宿の魅力を最大限に伝え、見込み客の熱量を上げる

③その流れのまま予約ASPでスムーズに直予約してもらう、またはOTAで予約をしてもらう

④一度興味を持ったユーザー・見込みのある属性を持ったユーザーにWeb広告を出して

 

OTAや自社サイト、予約ASPなど、宿泊業界のオンライン予約には様々な要素が絡んでおり、難しい立ち回りが要求されます。しかしそれぞれのチャネルの役割や特徴を活かし、戦略的に改善・運用していくことで売上や利益の最大化を目指すことは十分可能です。

 

他と比べても特殊な業界ではありますが、Webマーケティングの手法や言葉に安易に飛びつくのではなく、やるべきこと・やるべきでないことを適切に判断していく必要があるでしょう。

 

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