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SKAdNetworkを活用するために

2022年8月、MetaからSKAdNetworkキャンペーンに関連したAPIの強化を実施する旨の「Product Update」が発表されました。これにより、広告主やMMPはSKAdNetworkキャンペーンについてより多くのインサイトを入手できるようになりました。

本稿では、今回ポイントとなっているSKAdNetworkについて解説していきます。

SKAdNetworkとは

広告効果の計測機能

SKAdNetworkとは、Apple社がiOS/iPadOS/tvOSのアプリデベロッパー向けに提供する、広告効果の計測機能を指します。近年、個人のプライバシー保護の観点から、個人の同意なしに固有の情報の取得やトラッキングが制限されるようになりました。直近ではサードパーティーCookieが2023年で完全廃止になる旨が話題になっていたため、聞き覚えのある方も多いのではないでしょうか。Appleでは、プライバシー保護重視の観点から、ユーザーの同意なしに端末を特定するデータを使用せず、また、ユーザーレベルやデバイスレベルのデータを一切開示することなく、コンバージョンデータを広告主に共有することが可能です。

SKAdNetworkは、2018年にApple社によって導入され、iOS14のリリースに伴いバージョン2にアップグレードされています。IDFAの取得が制限されることで生じる影響を緩和させるために導入された背景があります。

iOSのアップデートによりトラッキング制限が実施された状態でも、SKAdNetworkを利用することで、アプリのインストールやコンバージョンなどの計測が可能となります。データは広告配信以外にも会社成長のために欠かせないものですよね。Cookieが廃止されることで大打撃を受けたマーケティング業界は、新たな舵取りをしていく必要があります。

SKAdNetwork導入前との違い

iOS 14以前は、広告主はIDFA(Identifier For Advertisers)を使って広告パフォーマンスを測定し、パーソナライズした広告を配信していました。

そもそもIDFAとは、AppleがユーザーのiOS端末ごとに付与しているデバイスIDのことで、端末を識別することができるのが特徴です。IDFAに紐づいた利用履歴などの個人データを取得することで、広告仲介会社や広告配信会社は、ターゲティング広告に活用してきました。なお、IDFAの場合、その端末の所有者データを匿名化することができる特徴があるため、広告仲介業者等第三者が個人データを取得したとしても、ユーザーのプライバシー保護をしながらアプリ計測ができます。

Appleはこれまでユーザーがデータ提供設定を拒否しない限りは、アプリ事業者が自由にIDFAを取得できるようにしていました。しかし、2021年春からのネット広告制限により、iOS14.5より全てのApple製品上でIDFAの取得にユーザーの許可を義務付ける「IDFA取得のオプトイン化」が適用されることとなり、マーケティング業界に大きな変化をもたらしています。

オプトインとは、個人情報などのデータ提供可否をユーザー側が選択できる状態を指します。すなわち、 オプトインが適用されている場合、事業者はユーザーから許可をもらい、利用方法を開示しなければデータの取得が行えず、従来のようにIDFAを自由に取得できなくなります。また、IDFAは広告アトリビューションにも使われていましたが、今ではユーザーがIDFAにオプトインしない限り利用できなくなっています。

IDFAの取得が許可制となったことで、情報の取得に大幅に制限がかかってしまった企業もいるのではないでしょうか。これからは、ユーザーの同意を待つだけの姿勢でなく、同意することでいかにユーザーにとってもメリットがあるか、ユーザーに伝えることが大切になっていきます。

弊社では、ユーザーに刺さる文章、画像などを考えるリスティング広告に力を入れているため、ユーザーの誘導施策を行うにあたり、そのスキルを活かした施策設計が可能となっています。

SKAdNetworkの仕組み

では、どのようにして広告効果の計測が行われるのか見ていきましょう。

仕組み

流れとしては、以下のように分けられます。

(a)署名付きのパラメータを広告に埋め込む

埋め込むことで、キャンペーンを識別できるようになります。従って、その広告をユーザーがクリックし、アプリをインストールすることで、どのキャンペーンに基づくものかが分かります。

(b)ユーザーによるアプリの起動により、24時間タイマーがスタート

24時間タイマーとは、コンバージョン(CV)情報を24時間後に送信するための計測器を指します。

一度スタートしたらずっと止まらないのではなく、アプリ内にあらかじめ設定されたCVイベントをユーザーが経由するたびに、タイマーがリセットされ、再び0からのスタートになります。そして、ユーザーがそれらのイベントを経由するたびに、コンバージョン値(Conversion Value)と呼ばれる数値が上昇する仕組みとなっています。

すなわち、SKAdNetworkは、24時間タイマーと共に下流の指標の6ビットで構成されたスペース(0〜63の間の数字、またはバイナリーの000000〜111111の間)を提供します。このコンバージョン値は開発者により設定され、アプリ開発者がユーザーの実際の価値を判断をするためのイベントや一連のイベントなどの特徴を表しています。6ビットのON/OFFを切り替えることで、合計64の設定可能なコンバージョン値を使用することができます。

(c)タイマーが0となった時点で、ポストバックが送信される

タイマーが最終的に 0 に達すると、インストールとユーザーが完了した最高値のアクションを含むポストバックがアドネットワークに送信されます。ちなみに、この送信時についてAppleは、Appleがプライバシーのしきい値を満たしていると判断した場合、ポストバックにはコンバージョン値とアプリのソースとなるIDが含まれる可能性がある旨を述べています。最も、Appleはそのしきい値を明らかにしていないので、こちらから何かするのは難しいといえます。

(d)ユーザーがイベントを経由しない場合

アプリはインストールされたものの、そのまま放置され進められていないなど、ユーザーがCVイベントを経由しない状態が24時間以上続いた場合、コンバージョン値が更新されずにタイマーは切れることになります。ただ、タイマーが切れてしまったとしても、タイマーが切れてからランダムなタイミング(0~24時間以内)で、ポストバックが1度だけ広告配信ネットワークに送られ、広告の効果計測ができるようになっています。

CV値は合計64まで設定することができるので、何を設定するのか、どのような組み合わせが成果達成に最適か、どの程度設定すべきか、吟味して設定していきましょう。収益、エンゲージメント、マーケティングファネルの行動段階、性別、端末など、幅広く計測することができます。とはいえ、自社内で知見がまだ乏しい場合は、判断が難しい場合も多いかと思います。そのような場合は、専門家を入れて最適化を図ることも視野に入れていきます。専門家が入ることによって、データを収集し、分析し、さらに次へ活かしていくPDCAサイクルをしっかり回せます。

注意点

上記の通り、多くのコンバージョン値を設定できるので細かくデータを得られるように思われますが、注意点があります。

SKAdNetworkのデータは、アドネットワークにその所有があります。このため、広告主は、そこに直接アクセスすることはできません。つまり、アドネットワークを挟むことで、データがすぐ手に入らず、リアルタイムのキャンペーン最適化は困難な状況です。さらに、広告パフォーマンスに関する情報不足などの弊害も生じています。またそもそも、SKADNetworkから取得したデータをアドネットワークが操作している可能性があることから、その信憑性にも問題が生じる可能性が出ています。

このように、データを鵜呑みにすることはリスクがあるといえます。これに対し、マーケターが行う対策としては、アドネットワークからSKAdNetworkのデータを収集する際の、具体的な方策や検証方法を事前に準備・決定しておくことが必要です。SKAdNetworkがどう機能するかに合わせて、対応方針を提示していくことがこれからのマーケターの重要な仕事の一つとなっていくでしょう。

IDFAの収集が困難になっていく現状から考えると、今後の流れとしては、SKAdNetworkを利用したメディアバイイングが、流行っていくと考えられます。メディアバイイングとは、媒体の広告枠を買い付けることをいい、業務には、媒体の選定、広告枠の仕入れ管理、媒体社との広告枠の共同開発、価格交渉などが含まれます。このため、アプリの発行元は、共同開発等に向け、対応を整えておくことが必要です。アプリの発行元に対し、作成が義務づけられているSKADNetwork IDのリストを常に最新の状態に保つように要求するDSP企業も出はじめています。

以上の通り、仕組みとしては細かくデータを収集できるため、企業にとって利点が多い一方で、正確な分析を出すにはそのためのアドネットワークへの対策も必須です。どのように対策をすべきか、その方針などを決定づけるのはなかなか難しく苦戦している企業も多いように思います。一つ一つを分解して考えることで、最適化を図っていくことが重要です。

SKAdNetworkを活かすために

SKAdNetworkをよりよく活かしていくにはどのようにしたら良いでしょうか。
従来は、MMPを使用した広告効果計測ツールでは、インストールや課金イベントが完了した瞬間にほぼリアルタイムで、CVポストバックが送られてきていました。一方、SKAdNetworkはプライバシー保護に重点を置いた広告効果計測ツールのため、情報の伝達にかなりのタイムラグがあり、ポストバックする回数も1回のみとなっています。伝達にラグはありますが、設定次第ではユーザーの細かい行動情報を一括で記録したデータを1回で受け取れるため、分析・対応がしやすくなるといえます。

つまり、SKAdNetworkを使った広告効果計測では、ユーザーの細かい行動情報をきちんとコンバージョン値に記録して、ポストバックまでのラグを考慮したイベント設定が非常に大きなポイントです。また、コンバージョン値の計測方法を修得することが、SKAdNetworkにともなう制約を克服し、新しいアトリビューション計測をうまく活用することにも繋がります。

ただし、前述の通り、データに直接アクセスできるのはアドネットワークのみで、広告主がリアルタイムでキャンペーンを微調整することが困難であるデメリットもあるので注意が必要です。また、ポストバックされた結果は集約されているため、キャンペーンをパーソナライズするために最も有用な粒度が欠けている点が、非常に残念な点ではあります。

さらにSKAdNetworkの課題の一つとして、キャンペーンの数が制限されている点が挙げられます。SKAdNetworkはアドネットワークごとに100種類のキャンペーンしか許可しておらず、いかにその範囲内で成果達成ができるかを吟味していく必要があります。マーケターには、割り当てられたさまざまなキャンペーン予算を最適化するためのベストな打ち手について、十分な情報に基づき選択できるスキルが求められるでしょう。これは経験がものをいうところではあるので、対策方法の一つとして専門家に任せることを考えてみるのも良いかと思います。例えば、弊社では、リスティング広告に関するご依頼が多くありますが、データをもとに分析、改善していくという根本的な流れは変わらないため、今までのスキルを活かして、現状に対応していくことも可能です。

終わりに

個人情報保護の強化の流れの中、従来通りのマーケティング手法ではどうしても限界がきてしまいます。

根本となるデータ収集方法が変わった今、いかにそれを活用するための絵図を描けるかが、今後の企業成長を左右する一つの軸となるでしょう。

自社独自の手法を確立していき、成果達成に繋げていきましょう。

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