事業者視点で見るECの新常態とは
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ビジネスの環境が 大きく変化した1年
2020年は、これまでの常識や習慣が覆され、ビジネスを取り巻く環境が激変しました。その大きく変化した環境に、うまく適合して新しい戦略を立てることができた事業者と、適応できなかった事業者との明暗がはっきり分かれた1年だったと言えます。
EC担当者の存在感が大きく飛躍した一年
EC業界におけるこれまでの常識・習慣とはどのようなものだったのでしょうか。
代表的なところでは、店舗・店頭とオンラインを持つ場合の多くは、 “店舗優位のパワーバランス”であったことが挙げられます。店頭での売り上げの方が多かったり、リアルで来店する顧客との関係性も構築しやすく顧客グリップが強かったりと、顧客情報をたくさん持っているため、商品企画や価格決定の場でイニシアチブを取るのは店頭側といった構図になっていました。そのため、EC事業部は蚊帳の外にされてしまう傾向があり、EC推進を鈍らせていました。
しかし、外出自粛期間が長期化した結果、時短営業の影響で売り上げが下がったり店舗が閉店に追い込まれたりしたことでこの形勢が崩れ、マーケティング予算を抑えながらもECに注力せざるを得ない状況となりました。本来であればECの新規顧客を増やすためには、店舗顧客をECに送客することが、もっとも投資対効果が高いはずです。しかし、2020年の状況下では計画的な店舗閉店ができなかったため、対応が不十分となり顧客の取りこぼしをしている企業がほとんどでした。その中で大切なのが、短期的な戦略を立てること。閉店する店舗をリストアップして顧客を洗い出し、アプリやLINEを案内してつなぎ止め、今後はECで買い物をしてもらえるようすぐに戦略化することです。
さらには、その戦略をすぐに実施できる体制作りを行ったり、店舗スタッフとECスタッフを対象として「どういう企画をすれば店舗とEC間で相互送客できるのか」をテーマにしたセミナーを開催したり、今ECで売れている商品のデータをまとめ、企画・MD部署に連携することにも重要です。
このような施策を講じた結果、EC担当者は「いかにEC でものを売るかを社内で一緒に考える人」へと、立ち位置が変化しています。EC担当者の存在感が大きく飛躍したことが、2020年に見られるEC事業者の変化、EC業界の活性化の根底となっています。
ポイントは、以前からECに重きを置いて専門の担当部署を持っていたか、あるいはDXの推進をすでに行って会社全体に浸透していたかどうかです。
例えば、アパレル業でDXが進んでいた企業では、新型コロナウイルスの流行が始まった3・ 4月の早期に働き方をリモートワークに移行し、政府から外出自粛を要請され た5・6月のセール時期には ECを活用した打ち手をスムーズに講じることができました。
一方で「事態はすぐに収まるだろう」と悠長に考えていた企業は、セールの商機も逃したうえにDXによる企業内の体制整備も進まず、優秀な人材が多く流出した傾向がみられ、二極化しています。
また、売り上げ減少を未だにコロナを理由にしている企業も少なくありません。このままでは変化に前向きな企業と、そうではない企業との溝はますます広がっていくと言えます。
今、必要なブランドカとは
消費者が求める価値により敏感に、EC担当部署の立ち位置の躍進に起因する事業者側の変化を見てみましたが、消費者行動の変化に対応する傾向・潮流も見られます。
世界的に未曾有の出来事に襲われた今、これまでのように高級品を無駄に着飾ることに散財することが減りました。今や消費者は、自分にとって本当に価値のあるものを求めるようになったため、「今、必要なもの」への消費は安定しています。
特にアパレルでは、これまで商品をローンチするのに半年から1年の時間をかけ、どんぶり勘定でものづくりをしていました。新しくビッグデータやAIを駆使して需要予測を行い、企画や生産のリードタイムをいかに短くできるかに取り組んだ企業が多かったように思います。これにより、初動の予約数を見てスピーディに追加発注をすることが可能になったため、予約販売やオーダーを受けてからの受注発注が増えたのもトレンドです。
コロナ禍での消費者行動からは、ブランドや価格、品質の価値をきちんと理解して購入する層が増加していくことが読み解けます。消費者が求める価値にこれまで以上に敏感になる中で、選ばれるためにいかにブランド力をつけていくのかが重要です。
事業者に必要不可欠な「OMO」とは
これまでは事業者側が運用・運営しやすいような仕組みがつくられてきましたが、コロナ禍を機にユーザー視点やユーザー満足に重きを置いたサービス展開や仕組みづくりにシフトしました。その一環として取り組まれたのが、店頭とECとのポイント共通化です。店頭に気軽に行くことができない今、 ECで利用できないポイントは、消費者にとって何の得にもなりません。そこでECで貯めたポイントは、いずれ自由に外出して店舗で買い物ができるようになったときに使える仕組みへと見直した企業がたくさんあります。
このように、オフラインとオンラインが垣根を取り払い、顧客体験の最大化を目指し、購買意欲を刺激するマーケティ ング(OMO)は、今や取り組むのフォロワー数を重視しているほど。そういったSNSの影響力を持つスタッフは、 店頭に人が少ない今、スタッフ自ら試着をし、写真を撮ってSNSにアップ。コメントを書くなどしてOMOに寄与しています。こういった流れは今後トレンドとなっていくことでしょう。
事業者の業務領域は広がり、与えられた業務を慣習通りに行うだけでは進化に遅れてしまいます。そう言った意味でも、事業者にとって人材の確保・育成が今もっと急がれること。 EC業界において、アパレルやコスメは最先端の取り組みをしている業種群です。
コロナ禍で生き残るための打ち手として、多くの企業がOMOの第一歩にオンライン接客ツールを早々に導入しています。これらのツールは、体制づくりや人事制度をきちんと整えずして導入するだけではうまく機能しないものです。
OMOが成功している企業では、しっかりとした教育制度を整え、顧客を持っているスタッフには中途半端なインセンティブではなく、きちんと稼げる仕組みづくりを徹底しています。とあるアパレル企業では、スタッフ募集の際にSNSのフォロワー数を重視しているほどです。そういったSNSの影響力を持つスタッフは、 店頭に人が少ない今、スタッフ自ら試着をし、写真を撮ってSNSにアップ。コメントを書くなどしてOMOに寄与しています。
事業者の業務領域は広がり、与えられた業務を慣習通りに行うだけでは進化に遅れてしまいます。そう言った意味でも、事業者にとって人材の確保・育成が今もっと急がれることです。
大手メーカーのEC化ブレーキ
店舗の相次ぐ閉店や時短営業などによる売り上げ減少は、店舗担当とEC担当間のパワーバランスに影響を与えたほかにも、これまで慣習として常識だったビジネスのあり方に大きな変化をもたらしました。その際たるものが、卸売業への配慮の薄れです。
例えば、家電業界では量販店の販売網が強く、これまでだったら「自社でECをはじめます」 というと、営業担当をはじめ社内から大きな反発が起きていました。そのため家電メーカーでは、自社ECやモールでの販売は慣習として自主的に控えていました。こういった卸売業への配慮 が大手メーカー、特に家電業界でD2C化が遅れた要因となっていました。
しかし、店頭での販売が絶対ではなくなった今、その配慮は無用のものになったと言えます。そのため、自社サイトでしっかりと商品を売っていこうという方向性に変えることができた業種が、この1年間でこぞってEC化を推進。 これまでできなかった、自社サイトで顧 客の囲い込みを行い、顧客データを活用しながら戦略を立てる事業者が増えたことは、ひとつの大きな潮流となりました。
昨年は各業種において、メーカーが直接モールに出店する傾向が多く見られた1年間でもありました。こういった事業者の狙いは、モール内のランキングによる露出の強化にあります。「楽天/ Amazonでしか買い物はしない」という一定数のユーザーの存在を見越し、自社サイトだけでは取りこぼしかねない層に接点をつくりにいった事業者が、モール内はもちろん自社サイトや店頭での売り上げを複合的に上げていったと言えます。
また、ZOZOTOWNに依存傾向が強かったアパレル業界でも、楽天ファッションの出店数が増えたことは興味深い変化です。これは、事業者側がモールに対する偏見やイメージを優先するのではなく、純粋に商品を顧客に届ける手段を追求した結果だと考えられます。
独自の世界観、が求められている
大きな潮流がある中で、 事業者に見られたトレンドのひとつが、ブランドごとのECサイトの立ち上げです。
複数のブランドを展開している企業の場合、これまではひとつのECサイトにまとめていることが多かったのですが、各ブランドのお客様層も違うためユーザーの囲い込みやCRM(顧客管理)などがうまくできていませんでした。
対策遅れになっていた課題に着手するため、総合サイトを継続しつつも、ブランドごとで個別にECサイトをつくり、裏側では顧客のデータを一元管理できる仕組みを構築した事業者が、特にアパレル業界で増加しました。
また、2020年を通してD2Cで成功をしている事業者は、共通して「独自の世界観」や「今までになかった価値観」を提供していたことが特徴として挙げられます。
これらの施策は新事業として実施され、デジタルネイティブなメンバー構成がされている点も特徴です。オーナーやデザイナー、PR担当が自らSNS での発信を行うのですが、そのライブ 効果は絶大で、ダイレクトに購買へとつなげていくことが可能となります。
こういった動きは、コスメ業界で特に顕著に表れました。男性用化粧品を展開するブランドでは、外出自粛要請が出た時期に男性が憧れる男性タレントを起用しました。統一感を持ってパッケージ展開や、Instagramを中心としたSNSマーケティングに力を入れたことで、 男もスキンケアに時間とお金をかけるのが当たり前なのだという、従来の男性化粧品にはない「世界観」を構築することに成功しています。さらには、サ
ブスクリプションモデルを採用したことで、収益性を高めています。このような流れもあり、PR コストをSNS、特にInstagramに投資する事業者が増えたことも、トレンドのひとつといえるでしょう。